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最前線!職業人インタビュー vol18
問題を抱えた子どもたちが、自立後いつでも帰ってこられる「心の安全基地」に
横浜市自立援助ホーム「えんどうホーム」 代表 遠藤 浩 氏
えんどう・ひろし1947年、千葉県生まれ。市川学園高校卒業後、演劇学校を経て、現代演劇協会付属演劇研究所に研究生として入所。劇団「雲」に入団し、25歳で「マクベス」で武将役として初舞台。その後、劇団「雲」が分裂してできた劇団「昴」の一員として、40ほどの芝居に出演。代表作は、主役である探偵役を務めた「他人の目」、「個人の耳」(三百人劇場)。1991年まで同劇団で舞台俳優および演出を手がけた後、92年1月、横浜市金沢区の自宅で横浜市自立援助ホーム「えんどうホーム」開所。全国自立援助ホーム連絡協議会代表。『自立援助ホームからの提言』を『虐待を受けた子どもへの自立支援』(村井美紀・小林英義編著:中央法規刊)に執筆。
(2004年11月8日掲載)
※インタビュー:2004年9月6日

―遠藤さんは、ご自宅で自立援助ホームを運営されています。まず、自立援助ホームとはどういった施設なのでしょうか。


自立援助ホームとは、帰る家がなく、問題を抱えた子どもたちが自立できるまで働きながら生活する家です。そもそもは、1958年にボランティア組織が自主的に運営を始めたものでした。当時、戦争で親をなくした子どもたちが、養護施設を出たところで仕事に挫折し、行き場をなくして街にあふれていた。そんな子どもたちが暮らせる場所として提供されたのです。84年に東京都、88年には厚生省(現・厚生労働省)が補助金対策事業として認め、97年には児童福祉法の改正で児童自立生活援助事業として公認されました。現在では、入所理由は戦災孤児から「家庭崩壊」や「虐待」で親から離れざるを得ない、というところに変わっています。子どもたちは、児童相談所、児童養護施設、児童自立支援施設をはじめ、家庭裁判所や少年院、福祉事務所など多彩なルートから送られてきます。

―経済的には、どういうしくみになっているのでしょうか 。

国と横浜市から補助金が出ます。昨年までは合わせて年約250万円でした。それでは1人分の人件費にもならない、と訴え、ようやくこの10月末から虐待防止法の改正で倍の約500万円に引き上げられます。一方、横浜市はそれとは別に約1350万円、助成してくれています。この金額は全国3位で、自治体によってはゼロのところもありますから、同じ自立援助ホームでも経済事情には大きな違いがあるのが実情です 。

―現在およびこれまでに何人、預かってこられたのでしょうか 。


いまは、女の子が3人いますが、すぐに満杯になると思います。これまで14年弱で79人を迎え、76人を送り出しました。ほとんどが10代の後半ですね。児童福祉法に位置づけられてからは、18歳になったら自立援助ホームから出なければならなくなったのですが、支援が必要な子は引き続き運用で受け入れているのが実態です。というのも、児童福祉施設などで準備ができていないにもかかわらず自立を強いられ、再び行き場をなくした子どもたちをホームが受け入れている、という補完構造にあるからです。そういうところは、法律というものは冷たいと思いますね。

― 自立していくまでにはどれくらいの期間、ここで生活をするのでしょうか 。


半年から2年ですね。裁判所から補導委託として送致されてくる場合、6カ月間、試験観察をして問題を起こさなければ不処分となり、出ていけるのですが、本人の希望などもあれば、そのままいてもらうこともあります。でも、来た時には暗い目をしていても、3カ月も経つと、大抵の子はつきものが落ちたように一生懸命働くようになるものですよ。その3カ月間にはいろいろ問題を起こしてくれますが(笑)。

―問題、とは 。


夜中になっても帰ってこないとか、会社をサボるということから、ケンカや窃盗、あるいはクスリに手を出す、といったことですね。警察沙汰も多いです。そういう、してはいけないことをしたときは、パッと怒りを放つように叱るようにしています。悪いことをしたことは本人もわかっているわけで、えんえん説教するのは逆効果でしょう。万引グセのある子がいて、「やったら言いなさい」と言っていたんですが、毎日言いにくるんです、「今日もやっちゃった」と。そのたびに一緒に謝りに行きましてね。1カ月半経ったころ、「悪いとわかっていて、やめたいのにやめられない。もう死にたい」ってその子が言うんです。そうしたら、スーッとやらなくなりました。怒っても、聞く耳がなければ意味がない。聞く耳を持てるまでは、「一緒に歩いている」といった姿勢をきちんと示すほうがいいと思います。

―そんな子どもたちが、わずか半年から2年で自立する、というのは想像がつかないのですが、何か支援の方法論があるのでしょうか。

自立援助ホームとして定められた仕事の形式などは特にないんです。大学で教育学や心理学、社会学を学んで指導員として施設に入っても、子育ての経験もなければ、施設における養育論も確立していない。ですから、子どもたちを上手に扱うのは難しいでしょう。また、よほど素晴らしい施設長がいる施設ならば職員の質も高まるのでしょうが、実態はその逆のようです。傷ついている子どもにやってはならない体罰で強制するようなところもあると聞いています。それで、98年にようやく厚生労働省が体罰懲戒権の乱用禁止令を出しました。戦災孤児を入れた戦後の意識が、いまだに色濃く残っている世界のように思います。そもそも、児童養護施設では「自立」を「身辺のことから経済的なことまで、何でも一人でできる状態」と定義しているのですが、僕とはそこから考え方が違います。

― というのは 。


そういった子どもたちの問題の根本には、強い対人関係障害があるんです。この世に生まれ落ちた時から、誰からも迎え入れられずにきて、非常に深い人間不信を抱いている。そんな子どもたちにしてみれば、好きでもない指導員から「やれ」と言われても、やらないと怒られるから、とりあえず表面的に適応するフリをするだけ。人間不信を取り除かなければ、何も始まらないんです。僕は、そうではなく、自立とは「他者を適度に受け入れ、他者に適切に依存できる状態」と考えています。そうさせるために、子どもたちをいかに迎え入れるかが極めて重要なことだと思っています。

―具体的に、どういったことを実践されているのですか。

まずは食事の重視です。週に1日くらいは残業やデートで遅くなるのは構わないのですが、毎晩、7時半には帰ってきて、みんなと一緒にごはんを食べること、と言っています。食卓にはテレビを置いていません。女房が手をかけて料理をし、レストランのフルコースのような食事をゆっくり楽しむようにしています。それを毎晩毎晩、繰り返す。ほか規則はなるべく少なくするようにしていて、ここでは3つの約束があるだけです。まず「働く」ということ。次に「働いた給料から生活費として月に3万円入れる」こと。そして「残りは自立のために貯金すること」です。100人くらいの子どもが生活している施設も多く、どうしても規則で管理をしようとする。それでは身動きができないので、まず、そんな規律をなるべく外してあげることが大切だと思っています 。

― それだけでも、3カ月もすると、子どもたちは変わるわけですね 。

その間は、それ以外、何もしないことが大切なんです。我々は見守るだけ。何もしないというのは、心的エネルギーをもの凄く使うんですね。しかし、だいたいが大人は子どもをいじりすぎるんです。そうでもしていなければ、仕事をしている気になれないからでしょうが(笑)。しかし、それでは子どもが本来持っている力がそがれていってしまうと思うんです。それが証拠に、ここでは3カ月もすると、子どもの目が丸く、大きくなって、あいさつなどもしっかりできるようになります。施設などから実習生を入れることがありましたが、「いっさい、何もしなくていい。それよりも料理の一つでも覚えなさい。そのほうがはるかに役に立つ」と言いました(笑)。いまの学生で、しっかり料理ができる人なんて珍しいでしょう。リンゴの皮ひとつむけない。


―なるほど(笑)。それで、どういう状態になったら、子どもたちは自立してここを出て行くのでしょうか。

「何かあったらここに帰ってくる」と確信できたときです。それが、「他者を適度に受け入れ、他者に適切に依存できる状態」という自立状態のしるしだからです。ここを出た子どもたちは、僕が保証人になって、近くにアパートを借りて住んでいるんですが、お金の相談とか、子どもが生まれたとか、何かあると帰ってくるんですよ。まあ、「実家」みたいなものですね(笑)。ジョン・ボウルビーという人の「愛着理論」の中に「心の安全基地」という考え方があるんです。これがないと危機を乗り越えられず、発達していけない、というもの。だから、えんどうホームはここを出た子どもたちの「心の安全基地」になれればいいな、と思っているんです。子どもたちのほうから縁を切ってこない限り、こちらからは決して縁を切るようなことはしません。何でも一人でできるようになったからと、子どもが一人、アパートでごはんを食べることほど淋しいものはないでしょう。そんなときはいつでも来てくれればいいんです。
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