RECRUIT Learning Information Services Div.Co.   2008年10月14日更新  
  激変する教育業界の経営戦略「志願者減少時代の次の一手」  
  ■ CHAPTER  019   学校法人冬木学園理事長・畿央大学学長 冬木智子 氏  
 
             
    profileimages   教育の感動は古びない。
感動する心を育むとともに、
そのきっかけとなる体験の場を与えていきたい。

冬木 智子 氏

学校法人冬木学園創立者
大正11年奈良県生まれ。昭和17年京都府立女子専門学校(現京都府立大学)卒業。奈良県立櫻井高等女学校(旧制)教諭を経て、昭和21年奈良県認可冬木文化服装学院を設置。昭和27年準学校法人冬木学園、昭和39年学校法人冬木学園を設立、理事長に就任する。その後桜井女子高等学校(現関西中央高等学校)校長、桜井女子短期大学学長なども歴任。平成15年より畿央大学学長を兼務。
文部大臣表彰(高等学校教育功労:昭和51年)、奈良県知事表彰(栄養士養成功労:昭和55年)、文部大臣表彰(私学審議会委員功労:昭和56年)、藍綬褒章受賞(私学振興功労:昭和57年)、文部大臣表彰(短期大学教育功労:平成2年)、勲三等瑞宝章受賞(平成8年)、奈良新聞文化賞受賞(平成19年)など受賞歴多数。

   
             
     
 

教え子3人の洋裁教室にはじまった冬木学園。

 冬木学園の母体は、終戦間もない昭和21年に私が開いた洋裁教室です。当初の教え子は3人。その3人は、私が教諭を務めていた女学校の卒業生でした。彼女たちは、すでに退職していた私のもとに突然やってきました。そして「何でもいい。何かを教えてほしい」「どんな状態でも先生の教育を引き継ぎたい」と訴えるのです。私はその熱意を即座に受け止め、教室を開くことにしました。場所は自宅、黒板は手づくりでした。やがてこの私塾は話題を呼び、遠方からも生徒がやってくるようになりました。そのために校舎も建設し、昭和27年には準学校法人、昭和39年に学校法人の認可を受けました。以降、高等学校、短期大学、幼稚園、そして平成15年には短期大学の改組転換によって大学を開学し、現在は、畿央大学・大学院、関西中央高等学校、畿央大学付属幼稚園で構成される学校法人に発展しました。

 あのとき3人の教え子たちが訪ねてこなかったら、果たして冬木学園はどうなっていたのか。想像もつきません。でも私の人生は、自然と学校に近づいていく運命だったのだと思っています。その原点は、すでに幼少の頃に育っていたのかもしれません。私は奈良の美しい自然に囲まれて子供時代を過ごしました。あぜ道に腰掛け、茜色に染まる神々しい夕焼けを眺めながら、いつか自分もあんな美しい国に行ってみたいとよく夢想したものです。次第にその美しい国のイメージを学校に重ねるようになり、学校に対する憧れを募らせていきました。実際、私にとって学校はすばらしい場所で、小学校の6年間と女学校の5年間、一日も休むことはありませんでした。大学卒業後には母校である櫻井高等女学校の教壇に立ちました。当時1クラスは50名。60年以上も前のことですが、いまでも全員の出席番号とフルネームを鮮明に思い出すことができます。女学校を退職したら、さきほど申し上げた3人の教え子が訪ねてきた。やはり、教育に生涯を捧げる運命だったのです。

建学の精神は、「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」。

photo  学校を開設するにあたり、まず取りまとめたのが、精神的な柱となる建学の精神です。それは「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」の3つです。これは私の教育に対する夢をあらわしたものでもあります。「徳をのばす」は相手に対する畏敬の念や人の痛みを理解できる心を育むこと。「知をみがく」は一般的な知識だけではなく知力、体力、学力すべてに磨きをかけていくこと。「美をつくる」は目に見えないものも含め五感に訴える美を創造し、それを通じてみずから感動するとともに他者に美を与える美しい活動をしてほしいという願いです。これらはおよそ半世紀前に取りまとめたものですが、いまの時代にも力をもち得る教育理念ではないでしょうか。冬木学園には幼稚園から大学・大学院までが設置され、子供から社会人まで幅広く在籍しています。それらすべてにおいて、教職員が一丸となってこの精神を浸透させた教育を展開していかなければなりません。

 平成15年に開学した畿央大学は、健康科学部に理学療法、健康栄養、人間環境デザインの3分野の内容をもってスタートしました。健康問題への関心が全国的に高まるとともに、リハビリテーションに対する需要が急速に伸びていた時期でした。当時理学療法士の養成機関のほとんどが専門学校であったため、本学の存在は非常にインパクトがあり、多くの優秀な受験生を集めるなど新設大学としては異例の高い評価を受けました。開学3年目には教育学部を設置し、現代の教育課題に取り組むことにしました。そして平成20年には健康科学部に看護医療学科を開設し、現在に至ります。健康科学部が4学科体制となったことで、学科の枠を越えたチーム医療教育などをいっそう充実していくつもりです。

 畿央大学でも学園の伝統である一人ひとりを大切にする教育は変わりません。担任制を導入し、年に2度個人面談を行うなど、学生と教員の意思疎通を十分に行っています。面談結果は教員全員に公開し、問題意識を共有しています。また学生アンケートによる授業評価を通じて、学生の声に耳を傾ける努力もしています。私自身も授業評価のアンケートにはすべて目を通していますが、感心するのは私が改善したいと感じる点と学生の意見が同じだということです。学生たちは、ほんとうによく学校を観察しているものだと感じさせられます。

地域社会との協働やインターンシップなど、体験的な学習を重視。

 畿央大学の大きな特色は、体験型の授業やプロジェクトが非常に盛んなことです。病院の患者さんや施設の利用者さんたちの気持ちに直接触れることでしか得られない気づきがあり、そこにこそ学習の本質があるからです。いくつかの具体的な事例を挙げましょう。健康科学部では、「KIO元気塾」というプロジェクトを実施しています。毎週2回、リハビリテーションを求める地域の方々を学内に招き、理学療法学科の教員と学生が学内の施設を使ってリハビリを支援します。同じ方々に健康栄養学科の教員と学生は、地域の栄養士さんとともに栄養教室を開いて、食生活面のアドバイスを行います。今後は新設の看護医療学科のメンバーもプロジェクトに加わる予定です。「離島・へき地医療体験実習」では、地域住民と密着した全人的医療を実践しているへき地や離島に出向いてさまざまな施設を見学したり、実習に参加したりします。そこでは、いかに保健・医療・福祉の連携が重要なのかを身をもって知ることになります。

 人間環境デザイン学科のあるゼミでは、産学官民を横断したワークショップに参加しています。奈良県桜井市の三輪地区にある「三輪駅前広場」のデザインなどに取り組むプロジェクトで、小学生から高齢者まで50人もの地域住民と意見交換を行うなどしました。学生たちは、デザイン案の模型作成やプレゼンテーションなど、かなりハードな作業をこなしていました。まさに「知をみがく」作業です。今後学生たちは、具体的なまちづくりに継続してかかわっていくことになるでしょう。

 教育学部では、「学校インターンシップ」の取り組みに注目しています。奈良県を中心に、大阪、京都の小中学校に約100名もの学生が参加して、現場で学んでいます。学生は週1回、報告書を提出するのですが、それが学生のもとに返されるときには教員のコメントで真っ赤になっています。学生の体験だけで終わるのではなく、それをより伸ばしていくためには双方向のコミュニケーションが必要だと考えるからです。また学生時代に教員の手厚いサポートを受けたという体験は、みずからが教員になったとき生徒に対して真摯に向き合う素地を育てるのです。

畏敬の念をもち、人の痛みがわかる人間を育てたい。

photo  こうした機会をたくさん与えているのは、学生たちに感動を味わってほしいからです。学びの中で得た感動は古びることなくその人に生き続けます。また、感動は人生の糧でもあります。

 そのためにも、人間性の成長が欠かせません。冷たい心に感動は宿らないからです。本学の教育研究領域である健康・教育は、いうまでもなく人間が対象です。たとえば医療の場合、痛みをもつ人とかかわります。その痛みを感じ取る人間性をもち合わせていなければ何もはじまらないのです。これからも、「徳をのばす」「知をみがく」「美をつくる」の建学の精神を大切に、人や命に対する畏敬の念をもった人間を育てていきたいと思います。